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〜 <文明>の新しいかたちを求めて 〜 ( 佐々木寛のブログ )

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中東訪問から考える  イラク アルビル――「市民戦争」と「市民」
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    前回は、イラク(アルビル)の「豊かさ」について触れました。
    アルビルは「第二のドバイ」とも言われていますが、その場合の「豊かさ」とは、言うまでもなく消費経済や商品経済の発展という意味における「豊かさ」です。けれども前回は、それよりも豊かなもうひとつの「豊かさ」を、アルビルの街で探し、その意味を考えました。

    ただ残念ながら、イラクではまだ紛争が終わってはいません。2003年イラク戦争…。世界はとっくに忘れ去っているようですが、しかしあれからずっと紛争は続いているのです。日本もずいぶんと関わったこの戦争の後にいったい何が起きているのか、もし私たちが忘れているとすれば、それは本当に無責任なことだと思います。

    現代は、「civil war(市民戦争・内線)」の時代です。その意味で、今話題のシリアやクリミアのみならず、忘れられたイラクの地域紛争の現状も、同時代の共通課題として考える必要があります。

    訪れてみてまず気がついたことは、社会に広く蔓延する軍事文化や軍事経済です。「社会の軍事化」は、紛争が長期化すればするほど、根雪のように市民生活に定着し、次の紛争の栄養源になり続けます。写真は、ホテルにいっしょに居たイラク人(元軍人)がサッと出してくれたホンモノの拳銃です(初めて持ちましたが、モデルガンと変わらない感触でした)。このように武器も社会のいたるところに普及しています。そして、テレビドラマなどでも、拳銃で簡単に人を殺すようなリアルな暴力シーンが多く見られました(とはいっても、それは日本も同じかもしれません…)。



    今回、さらに危険な地域であるイルクークでの状況などは、そこで活動する「INSAN」というNGOの方々にインタビューする形で情報収集をしました。その結果、子どもたちや学校の中にも、日常的に民族差別や暴力が蔓延している様子がわかりました。ゴミの出し方が悪いという理由で銃撃戦が始まったり、モスクにすら日常的に爆弾テロがなされるという状況は予想を超えていました。

    下の写真は、私(右)とINSAN代表のアリさん(左)です。詳細はJVCの報告や今後のプロジェクトの中でお知らせできると思いますが、まず何よりお伝えしたいことは、崩壊する地域社会の中で、INSANのような、無名であるにもかかわらず、平和構築のために本当に重要な活動を展開しているNGOがあるということです。私は、現在の国連中心の、いわば「上からの平和構築」というのは、相対化され、再構築されるべきだとかねてより考えてきましたが、それは確信に変わりました。時間がかかっても、本当に確実な「平和構築」が何であるのか、それは、平和研究としても最重要のテーマです。



    アリさんがおっしゃっていた中で、もっとも印象的だったのは、「市民社会(civil society)」の概念についてです。彼らにとって「市民(civil)」とは、何よりも「軍(military)」の対抗概念であるということ。つまり、「市民」とは何よりも「非軍事(武器をとらない)」という意味なのです。これは「シビリアン・コントロール」という意味での「市民」ですから、私たちにとっても馴染みがあるのですが、彼らの活動の骨格にこの意味における「市民」概念が貫かれています。デモクラシーの担い手はまず「非軍事」でなければならないという思想は、「武器を取って戦う市民」という欧米の伝統的「市民社会」概念とは一線を画しています。長期的な内戦で破壊された社会の中で、彼らがもがきながら選択し、生み出してきたこの思想のニュアンスに、私は深い衝撃を受けました。

    お金もない、物もない(アリさんがもっていたPCはキーボードの一部が壊れたままでした)中で、我流で勉強し、何とか世界の情報を収集し、自分たちの創意工夫で地域から平和を創り出そうと奮闘努力している姿から、本当に学ぶべきことが多くありました。限られたありあわせの材料を組み合わせて創り出される彼らの実践は、いわば「“ブリコラージュ(器用仕事)”としての平和構築」とでも呼ぶべきものです。

    そしてここでも、キーワードはやはり「コミュニティ」でした。地域をつくる力です。彼らの地域づくりの個々のスキルには、驚くばかりでした。「平和な地域コミュニティをいかに創るか」というテーマは、「3・11」後の東北をはじめ、紛争やグローバル化で傷ついた地域や世界中が抱える共通課題でもあります。彼らの創造的なスキルは、たとえば東北の被災地にも活かせるかもしれませんし、またたとえば、私たちの「非暴力トレーニング」の研究やスキルは、イラクをはじめ世界中の紛争地域でも応用可能かもしれません。これからやるべきことは多そうです。

    最後に明るい写真を載せておきます。上の写真は、INSANの女性スタッフのひとりから見せていただいたもので、いろいろなエスニック集団の若い女性たちが仲良く映っています。下は、街角で見たイラク仕様のマネキン人形。まゆげが濃いのが和みます。いずれも来るべき新たな「文明」にとって重要なヒントが隠されている気がします。


    | 佐々木寛 | - | 13:04 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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